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「恋は雨上がりのように」第三話について

  2018年で一番気に入ったアニメの中で一番気に入った話数だと言えばやはり「恋雨」第三話。色々な意味で美しい一話だと思う。
  第三話について最も語りたくなるのは橘あきらというキャラクターのイメージの多彩さ。それに驚いたほど、そのイメージを多角的に描写した手段の豊富さ。

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  アバンであきらが起きて、マニキュア液を拭うシーンはディテールに凝って生活感をもたらした。前回の回想から目覚めたときの迷った顔と女性らしい仕草は実にリアル感や説得力があってさすがに女性演出家しかできない細かい描写だなと思う。このシーンからセリフを頼らず、キャラクターの内面をさりげなく描写するというのは第三話における全体的基調となっていた。

 

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  恋に焦って思考が逸れた乙女の繊細な感情が眉の細かく揺れ動きに宿る。眉毛を読まれるというのはそういうことだね。丁寧に描かれたまつげと髪の一筋一筋、光沢感のある前髪と汗の粒、さらに彫塑のような立体感を感じさせた横顔の入れ影とハイライト。あきらはエレガントな美人でありながら生き生きとしているのは、思春期の切なさが巧緻な輪郭に内包されるからだ。

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  元気かつ喧しい同クラスの女子高生と不愛想という印象を持っていたあきら。レイアウトの上手さははっきりとわかりやすい。

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  かつて一緒に陸上部で活躍していた親友の隣はもう自分の居場所がなくなったという鬱ともう走れないという焦燥が、失意のうちに自分を慰めてくれた近藤に対する好感と混じってしまい、雨に濡れた。そして、唐突かつ大胆な告白。ついでに言えば対峙シーンを示すときにマルチスライド気味の回り込みが河野演出の特徴の一つ。

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  告白のシークエンスに肝心なところは、あきらが「あなたのことが好きです。」という一つのセリフしか何も言わなかったということ。何も言わないのに、あきらの中にあるすべての感情はもう全部言い出した気がする。豪雨の中に決意し、無心に愛情を打ち明けたあきらの姿勢はあまりに刺激的で、雨の音さえなくなって、ただその一つの言葉が胸の中に膨らんで余韻を残した。あきらが離れたあと煙草の灰が地面に落ち、そのタイミングを合わせて雨の音は戻ってよく聞こえて、音の変化によってより強い感情のカタルシスをもたらした。「云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞いていたのである。」詩趣のあふれた演出だった。

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  Bパートに入ると雰囲気が一変し、あきらの凛々しいでありながら瑞々しい一面を表現した。回転のハイライトはときめく恋心。

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  そして、反射と光。街燈の光なのか、それとも月の光なのか(雨天であまり月が見えないと思うが、なんとなくそういうふうに感じる光)、淡く清い光が車窓から流れ込んであきらを静かに照らし、近藤への思いが妙なニュアンスで伝わってきた。色指定を変えることによるカラーリングは繊細な色変えが施され、二人の間にきまり悪さに満ちた雰囲気を醸し出した。演出家の観察力と感性の格調高さを窺えたはずのワンカット。

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  自然なかわいらしさを感じさせた芝居と幕を開けるようなトラックアップ、それにキャラ全身をフィルムに収めた構図、終盤のシーンは舞台の概念にこだわっていて劇的な展開と新しい段階に入るあきらと近藤の関係性を匂わせた。緊張で小刻みに震えたあきらの姿に雨後の清々しい大気のような冴えた感触が伝わってきていい味を出した。
  第三話に雫など注目したい描写はまだいくらでもあり、ほかの話数と比べてみるとずっと「恋は雨上がりのように」という作品について語りたい気分になった。今回はここで筆を置くことにします。